CRMやマーケティングオートメーションと相性がよいのはどんな企業?

 学生と実務家という立場で書かせていただいている連載、実は先月が卒業研究の提出と被ってしまい1回お休みをいただいたのですがお陰さまで何とか無事に9月で卒業することができそうです。

 マーケティングコースを専攻したとはいえ、学んだのはたった2年ですのでまだまだ勉強は足りないのですが、私の場合は15年程の業務経験を有しており、Webの企画、デザイン面の専門家としてプロジェクトに参画しますので、このポジションの人間がマネジメントやマーケティングに関する知識を有していて、お客さまの問いかけに対して"この人は話を分かってくれる"という体験を与えつつ、企画全般に関して一定品質でアウトプットしていけることは、業務面で大きなアドバンテージとなっていると最近特に実感しています。

現場で求められるマーケティングのプロ

 連載の最初にも取り上げたことなのですが、これだけネットを通じたビジネス施策やマーケティング施策が重要になってきているのにもかかわらず、少なくない日本の企業はなぜ、「ネットのことはよく分からない」スタッフを現場にアサインしてしまうのでしょうか。

 日本ではクライアント企業がSIerにシステム構築案件を丸投げする体質がいまだに残っています。クライアント企業は外注企業をコントロールできれば何とかなるため、前述のような事情が短期間に変化するのは難しいのかもしれません。

 このような状況の中、ここでご紹介したいのが「世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 ~トップIT企業のPMとして就職する方法~」(マイナビ)という本です。この本では、Google、Microsoft、Apple、Facebook、Amazon、Yahoo、Twitter、Foursquare、Dropbox、Uberなどの企業で、プロダクトマネージャーとしてどんな人物が採用されるか、また採用されるにはどのようなスキルが必要なのかが紹介されている他、履歴書の書き方や面接問題などにも触れています。

 細かいところで言うと、Facebookではテクニカルなスキルを求められる傾向にあるとか、AmazonはMBA取得者を好む傾向があるとか、YahooのPMはたいていコンピュータサイエンスの学位を持っているといった事例が紹介されており、米国でそれなりのポジションで仕事をしようと思ったら、どれだけ努力が必要かを考えさせられます。また、実際に転職せずとも、こういうスキルの人たちがやる仕事と素人仕事では歴然とした差があるだろうなとも思わずにいられません。

 本のテーマは「プロダクトマネージャー」ですが、この本では、これからBtoBの領域でデジタル寄りのマーケティングを仕事にしたい人、これから仕事をする立場にある人には確実に参考になると思いますので、ぜひ一読をお勧めします。

 私が特に気に入ったのはこの一文です。

プロダクトマネージャーがとても魅力的なキャリアである理由の1つは、テクノロジー、ビジネス、デザインの交差点で仕事ができるということです。あなたは多くの役割をこなし、複数の視点を身につけていくことになります。

 どうでしょう? まさに現代のマーケティング担当者にも通じるものがある話ではないでしょうか。さらに予算とリソースのマネジメントについてもマーケティング担当者が直面する課題として同様のことが示されています。

  • ゴールを明らかにし、評価する基準を決める
  • プロジェクトを完遂するために必要な人員とスキルを特定する
  • プロジェクトマネジメントのツール、計画、プロセスを準備する
  • 進捗状況のミーティングを開催して、状況の報告を集める
  • データを分析して、チャンスを見きわめる
  • 変更点を決めて実行し、効率を高める
  • 顧客からあがってきた変更点を管理する
  • 何かトラブルがあったときでも、プロジェクトを予定通りに進める方法を見つける

 この内容は、マーケティングオートメーションを使いながらキャンペーンをマネジメントしていく業務そのものだと感じます。

 経済産業省の調べでは、米国はフォーチュン500社のうち62%がCMOを設置しているのに対し、日本企業でCMOがいるのは時価総額上位300社中わずか0.3%という数字が発表されています。

  • 「成長戦略と経営者への期待」(2013年11月25日)

 この辺の認識がマーケティング軽視の背景にあるのか? と余計なことを考えたりもしてしまいますが、前述のように、海外の採用基準や求める素養を考えれば考えるほど、この方面で日本が浮き上がれない理由が見えてくるような気がします。

 とは言いつつも、これからデジタル寄りになっていくであろうBtoBマーケティングの現場では、マーケティングのプロが本当に求められていると思います。キャリアアップしていくには幅広い領域での勉強が必要ですが、その努力が報われる可能性も大きい領域と言えるのではないでしょうか。

儲けは会社が総取り?

 話題は変わって、先日「特許、無条件で会社のもの|社員の発明巡り政府方針転換」というニュースをご覧になった方も多いと思います。

 安倍政権はホワイトカラーエグゼンプションのような制度を推進していますが、この方針もかなり企業寄りの施策で議論を呼びそうです。......と書いていたら、「社員の発明、特許は企業| 産業界が報酬ルールに理解」という相反する報道も目にしました。なぜこのニュースを紹介したかというと、儲けはどこに行くのかということが、ツールの導入/定着にも関連性があるという話をしたかったからです。

 日本の生産性は主要先進7カ国(G7)中最下位という調査結果をご存じの方も多いと思います。この結果を基に、生産性を高める話が数多く紹介されています。「生産性運動の3原則」をご存じでしょうか? 公益財団法人 日本生産性本部のWebサイト「生産性運動とは」で詳細をご覧いただけるのですが、ポイントはこちらです。

  • 雇用の維持/拡大
  • 労使の協力と協議
  • 成果の公正配分

 つまり、生産性や効率性が高まった場合に、その結果を経営側だけでなく労働者側にも適切に配分しようという根本思想の部分が書かれている話なのです。そう考えると、前述の職務発明の話も絡んでくるのですが、自身のアイデアやナレッジを共有して組織が収益を高めるという中で、その成果をどのように分配するのか、労使間で相談することの重要性が見えてくるのではないでしょうか。

 労働分配率は優秀な人に働いてもらうためにも重要な課題の1つだと思われます。そして、この問題はCRMやSFA、そして最近話題のマーケティングオートメーションの導入においても当てはまる懸念だとは言えないでしょうか。

 つまり、自身が苦労しながら作りあげた営業手法を共有/可視化することで多くの人が実績をアップさせることができたけれど、その情報やメソッドを提供したスタッフにはどういう報酬が与えられるのか? それともそこは会社が総取りするのか? という懸念にです。

 経営を学んだ人なら知らない人はいないであろうテーラーの科学的管理法。現代においては批判も多いようですが、実際に彼の著書を読むと、実ビジネスに非常に参考になることが多いのです。特に以下の文章にはテーラーの思いが表れていると思います。

「賃金を極力抑えて、最大限の作業をさせたい」という発想で働き手に接してきた雇用主には「リベラルな方向に人材観を変えれば利益が増える」と理解してもらいたいのだ。「適正な利益、まして大きな利益など、雇用主にもたらしてやるものか」「働いた成果はすべて自分のものになって当然だ」「雇用主や会社の資本など、ほとんど価値はない」と考える働き手にも、考えを改めてもらいたい。

 ツールが定着するには使い勝手の問題などもありますが、ここまでの話を踏まえると、CRMやSFA、マーケティングオートメーションの導入を検討される立場の方においては、テーラーの科学的管理法のエッセンスや生産性運動の3原則の考え方を知っていて損はないと思われます。

中小企業やスタートアップ企業にこそ

 CRMシステムは1990年代後半に日本に入ってきたとWikipediaには記載されています。大小さまざまな企業が導入してきたCRMは昨今のクラウドブームでさらにその勢いが増しているようです。この20年そこそこの時間経過において、産能大のマーケティング戦略の教科書には「今日のマーケティングの中心的テーマとなっているのが、この章で学ぶカスタマーリレーションシップマネジメント、いわゆるCRMである」と紹介されているのは驚きでもあります。

 CRM、SFA、マーケティングオートメーションの定着化サービスを提供する企業が増えているようで、そこにはこの手のツールの導入/活用がなかなか難しいことを表わしているわけですが、私はスタートアップ企業や上場を目指して急拡大している企業、あるいは、高い効率性を求める中小企業にこそ、この手のツール活用は必須であると考えています。

 その理由は、1人で多種多様な仕事をこなさねばならない中小企業やスタートアップ企業は膨大な業務量にもかかわらず人が足りない状況のため、本来、業務に使える時間の創出とその時間を効果的に使うことが労使双方の最重要課題として認識されているからです。

 現代ではワークライフバランスの実現も大きな課題ですから、有能なスタッフにいかに有効に時間を使ってもらえるように社内のシステムを構築するのかは、非常に重要な経営課題です。また、エンタープライズ領域においても、モバイルファーストの重要性が叫ばれているのは、社外を飛び回る営業担当者の業務効率アップや負荷軽減に大きく寄与する可能性に多くの人が着目しているからと言えるでしょう。

 例えば、弊社の場合、ここ最近、スタートアップ/ベンチャー企業と呼ばれるクライアントからのBtoB系Webサイトの構築案件には、必ずマーケティングオートメーションツールの導入がセットになっています。

 これらの案件に共通するのは、Webマーケティングのやり方をこのタイミングで一新したいというニーズです。具体的には、マーケティングオートメーションツールを導入(あるいは既存システムと連携)することでランディングページやメルマガを一括管理できるようにし、アクセス解析も行える環境の構築です。もちろん、バックエンドではCRMが動いています。

 CRMとの完全連動を実現させるケースにおいては、経営状態の可視化やキャンペーン投資の効果分析など、経営レベルでの要望が増えています。また、急拡大している組織においては、労使双方が効率化と効果性を求めているケースが少なくなりません。

 この連載でも繰り返し触れていますが、この1~2年でマーケティングオートメーションの導入を検討する企業は確実に増加するでしょう。それらのマーケティングオートメーションツールはほぼ漏れなくCRMと連動しています。

 その中で成功/失敗プロジェクトの割合がどの程度になるのか現時点では分かりませんが、弊社の知見の範囲で申し上げると、急成長過程のスタートアップ/ベンチャー企業か、今後の人材不足を見越して営業改革を行う覚悟が決まっている企業であれば、これらのツールを有効利用できる確率は高いと思います。

 以上、少し長くなってしまいましたが、次回はマーケティングオートメーションツールの導入経験の部分を制作サイドの立場からもう少し具体的に紹介していきたいと思います。